2025年5月14日水曜日

ハンズオン型ベンチャーキャピタルの授業について

 どうもClass of 2025のK.Sです。いよいよ帰国の日が近づいてきましたが、最後のセメスターで印象に残ったVenture Capital and Minority Entrepreneurshipという授業ついて紹介します。

この授業は、Goizueta Business Schoolの学生がメインで運営するPeach Tree Minotiry Veture Capitalという組織にアナリストとして配属され、セメスターを通じてベンチャーキャピタルの業務をハンズオン形式で学んでいきます(普通の授業と同じ単位数がもらえます)。

元々スタートアップ企業の経営戦略に興味があったのですが、投資を受ける側ではなく、投資をする側からはどのようにスタートアップを見ているのかに興味があり、この授業を履修しました。


【履修方法】

履修できるかどうかは選抜式で、この授業を受けたい学生は事前に応募して、選考を通過する必要があります(選考では履修理由等を1分ほどのビデオ動画に収め提出します)。


【学生とクラスの様子】

さて、クラスにはどのような学生がいたかというと、2年生フルタイムMBA、1年生フルタイムMBA、イブニングMBA、Exchage Studetが満遍なく混ざっているような授業でした。ちなみに私のチームはアメリカ人3人、中国人1人、オーストリア人1人の計6人でした。

また、メインの教授はJBというファイナンスの教授なのですが、その教授は教室の後ろに座って見守るようなスタイルをとっています。ほとんどの講義は、2人のAdjunct Professorとファンドを実際に運営している学生によって実施されます。


【クラスの負荷】

私はこのセメスターで他に2つの授業をとっていましたが、負荷的には全然こなせるレベルでした。基礎からしっかり教えてくれるので初学者でもついていけると思います。


【クラスの内容と流れ】

前半:

まず、自分の興味に応じて6つのチーム(テクノロジー、ヘルスケア、小売り等)にアサインされます。私はテクノロジーのチームにアサインされました。授業の内容についてですが、最初は主にベンチャーキャピタル業務の基礎知識を学びます。「まず、ベンチャーキャピタルってなにするの?」みたいところから始まるので、初学者の自分にとっては助かりました。授業が進んでいくと、プレマニーとポストマニーの計算、Safe条項、デューデリジェンスの手順や勘所等についても教えてくれます。


中盤:

前半で学んだことを活かして、チームごとに自分たちが投資したい企業を探していきます。企業の探し方ですが、例えばスタートアップを紹介するサイトを見たり、アトランタのスタートアップのピッチイベントに行って、有力なスタートアップを探したりと、この辺はチームの判断に任されます(一応大学側があらかじめピックアップをしてくれている企業も何社かあります)。良さそうな企業を複数社見つけたら、まずはShort Memo(投資判断の初期段階において、投資先候補スタートアップの概要を簡潔にまとめた内部用の文書)をいくつか作成していきます。Short Memoには、会社概要、会社のビジョン、創業者の経歴、スタートアップが解決しようとしている問題、その問題に対してスタートアップが提案する解決策、市場分析(市場ドライバー、法規制、TAM, SAM, SOM、競合他社等)、ビジネスモデル、これまでの投資実績などの内容が含まれます。Short Memoは全部で3回作成しますが、その度に担当コーチがフィードバックをくれるので、改善点は明確になります。また、これらの情報を探すためのツール(Pitchbook、LinkedIn等)の使い方も教えてくれます。

また、本筋の授業以外に、本物のスタートアップの創業者を教室に招いて講演会を実施することもあります。セメスターを通して5回ほど行われました。これはベンチャーキャピタルが、そのスタートアップが本当に有望なのかどうかを、創業者に質問を投げかける中で判断する良い経験にもなると思います。

また、少しセンシティブなマイノリティに関するトピックを取り上げてディスカッションをすることもあります。例えば、Peach Tree Minotiry Veture Capitalはその名の通り、アメリカにおけるマイノリティ(黒人、ラテン、女性等)の創業者が運営するスタートアップを支援することを目的としています。いわゆる大手のVeture Capitalで働くキャピタリストの比率は白人男性が多く、そこからくるバイアスのギャップによって、マイノリティの創業者の支援が十分に行き届いていないという問題提起をクラスの中で議論するということもありました。正直ここまで人種問題について突っ込んだ議論を提供している授業はこの2年間で受けたことがなく、日本人の自分にとってはかなりのカルチャーショックだったことを覚えています。


終盤:

いよいよ終盤に差し掛かると、中盤でShort Memoを作成した3社の中から、有力なスタートアップを1社ピックアップして、Long memo(投資実行を真剣に検討する段階で作成される詳細な投資分析資料)を1通作成しています。私たちは、Keepinglyという不動産マネジメントのSaaSビジネスを提供しているスタートアップについて、Long Memoを作成することにしました。調査項目はほぼShort Memoと同じですが、表面的な調査ではなく、より深い本格的な調査が必要になります。例えば、自分たちで調査したけどわからないところは、実際に創業者に直接コンタクトをとって質問をぶつけてみて、実際に現場で起こっていることをLong memoに反映させていくようなことも行います。私は創業者にコンタクトをとる窓口の役割を担いました、最初にコンタクトをとるところから、その後のフォローアップの質問リストの送付、最後には投資判断の決定を創業者を知らせるところまで行う中で、スタートアップに対するベンチャーキャピタルのアナリストに求められる振る舞いやや言葉遣いみたいなところも学べたことが貴重な体験だったと思っています。

Long memoの情報を基に、最後に教授とクラスメートの前に発表を行います(この発表が投資委員会への発表という位置づけです)。このプレゼンの結果より、6チーム中1チームのスタートアップが実際の投資先として選ばれます。結果的に私のチームは選ばれませんでしたが、プレゼン資料の作成を通して、収集した情報をビジュアル的に落とし込む力もついたかなと思います。


【最後に】

上記の通り、本授業は最初に学んだことを実践することを重視しており、座学では得られない多くの貴重な体験をすることができます。また、マイノリティの問題や、実際の創業者の話を聞く機会も多く、広い視座が得られる機会も多くあります。スタートアップやベンチャーキャピタルに興味がある人にはおすすめの授業です。


              チームメンバーとの集合写真