米国アトランタにあるエモリー大学ゴイズエタビジネススクール(Emory University Goizueta Business School)の日本人在校生によるブログです。

当校のプログラムやアトランタでの生活について書いています。

2025年5月14日水曜日

【課外活動】スタートアップ企業とのコンサルプロジェクトについて

 どうもClass of 2025のK.Sです!もうすぐ帰国の日が迫っているわけですが、今日は最後のセメスターに参加した、Goizueta Consulting Associationが主催するハンズオン型コンサルプロジェクトに参加してきたので、紹介しようと思います。

Goizueta Consulting Associationは、Goizueta Business Schoolにあるクラブの1つですが、そのクラブが毎年アトランタにあるスタートアップ企業を対象にした、学生主導型のハンズオンプロジェクトを機会を学生に提供しています。


【参加理由】

私が参加した理由としては、元々スタートアップの企業に興味があったのと、特にAIドリブンのSaaSビジネスに実践的に関わってみたいと思っていたので、参加することにしました。


【参加方法】

私の時は、同クラブからビジネススクールの学生宛てに参加希望を募るメールが送られてきていました。フォームに入力して、自分の参加したい企業を第1希望から第3希望まで選ぶ形です。


【プロジェクトの負荷】

自分がどこまで真剣にやるか、というのにかなり左右されると思いますが、私の場合はかなり負荷が高かったです。アサインされる前は1週間に5時間程度のコントリビューションという事前情報だったのですが、いざ始まってみると、忙しいときは1週間で30時間ぐらい作業していた気がします。毎週プロジェクトの進捗を確認されるので、その準備に追われことに加えて、チームリーダーを務めたことと、担当セクションが全体の中で一番重かったのが忙しさの要因だったと思います。


【参加企業】

私の年にクライアントになる企業の候補と概要は以下の通りです。医療系の会社が多いですが、私はこの中からSupercopyを選びました。

  • Oridivus(口腔内の創傷治癒を促進するために、自然免疫系を活用した治療法を開発しているバイオテクノロジー会社)
  • OrthoPerserve(膝の半月板損傷に対する人工半月板インプラント「Defender」を開発している医療機器会社)
  • SuperCopy(AIを活用してブランドとオーディエンスのデータを分析し、パーソナライズされたマーケティングコンテンツを生成するプラットフォームを提供するソフトウェア会社)
  • VocAlert(パーキンソン病患者のための声の発生装置を開発する医療機器会社)

【プロジェクトのスケジュール】
  • 2025年2月:候補先のクライアント開示・学生の募集開始
  • 2025年3月:アサインされるクライアントが決定。プロジェクト開始
  • 2025年4月:外部コンサルタントのリアリティチェック
  • 2024年5月:発表

【プロジェクトの内容】
私がアサインされた企業は、ターゲットペルソナに対して発信するSNSの宣伝文やメール等のコンテンツをAIで自動で生成するマーケター向けのソフトウェアを開発しているスタートアップでした。ユーザーはターゲットペルソナと、ブランドペルソナ(企業のブランドイメージのようなもの)を設定すると、その2つのペルソナの特徴やイメージに沿ったコンテンツが生成されるため、マーケターは一貫したメッセージを顧客に発信することができるようになります。Supercopyの創業は2022年でした。Supercopyが私たちにアウトプットとして期待することは以下の点でした。

  • ①エンタプライズ企業への売り込み戦略の提案
  • ②エンタプライズ企業向けのプライシング戦略の提案


私が所属したのは全部で7人のチームでした(アメリカ人5人、インド人1人、日本人1人)。またバックグラウンドもかなり多様で、Homedepo, Microsoft, Accenture,  などの企業で働きながらイブニングMBAで勉強をしている学生でした。

プロジェクトが始まると、チーム内で更に3つのチームに分かれました。私はPricing teamにアサインされ、チームリーダーを務めることになりました。同じチームには他に2人のメンバーがアサインされ、合計3人のチームです。

正直プライシング戦略の実務の経験はなかったので、うまくチームを引っ張ることができるのか不安でした。自分で色々と文献を漁ったり、1年生のときに履修したプライシングストラテジーの教授のところにお邪魔して、助言をもらったりなど、かなり忙しく動き回りました。

最初はsawtoothというソフトウエアを使用してコンジョイント分析を実施しようとしたのですが、Supercopyの製品がユニークであることに加えて、調査に係るリソースが少ないことから1次情報の獲得は諦め、2次情報からSupercopyのエンタプライズ企業向け価格を考案することにしました。以下のステップで調査を実施しました。

  1. ペルソナのニーズからプライシングモデルの決定
  2. Value Based Pricingにより、エンタプライズ企業向けのベース価格を決定
  3. 各Add-onsの個別価格を決定

以下で各ステップを詳しく紹介します:

1. ペルソナのニーズからプライシングモデルの決定

Supercopyはエンタプライズの中でも特にコカ・コーラ社への売り込みを狙っていたので、コカ・コーラ社のマーケティング部門で働いてる社員をペルソナとして設定しました(ここではペルソナをジェシカとします)。このジェシカが持つニーズ(例:コンテンツの一貫性を保ちたい、マーケットの動きに応じてキャンペーンのエクスパンドを図りたい)を分析して、それに合うプライシングモデルを考案します。最終的には、Flat-rate Pricing, Budled Add-ons, Unlimited user access, Three tiers pricingの4つの要素がジェシカのニーズを満たすことがわかり、これらの機能を価格モデルに組み込むことにしました。


2. Value Based Pricingにより、エンタプライズ企業向けのベース価格を決定

本来であれば、Value Based Pricingは潜在顧客へのアンケート(PSM分析、コンジョイント分析、デプスインタビュー)を通じて実施することが一般的ですが、今回はリソースや時間的な制約によりそれらが実施できないため、ジェシカのチームがSupercopyを導入することによって削減できるコストをValueに据え、そこからエンタプライズ企業向けの価格を算定しました。また、エンタプライズの支払意欲や競合他社の価格も参考に、価格の微調整を行っていきます。多くのAssumptionが必要であり、資料集めには苦労しましたが、最終的にはValueに見合う価格設定ができたと思います。


3. 各Add-onsの個別価格を決定

各tierのベースプライスは決まりましたが、ジェシカのニーズに応えるにはAdd-onの価格も決めなければなりませんでした。Add-onsの価格設定は2次情報でも見つからなかったため、チーム内で上限価格の仮説を立てて、1つ1つのAdd-onにどれくらいの価値があるのかを、評価して定量的に評価していきました。


最後に上記の1から3を統合して、最終的な価格表を作成しました。スライドの枚数は本番で発表したスライドは4枚でしたが、Appendixは20枚、Appendix前の検討段階のスライドを合わせると60枚ぐらいのスライドをプライシングチームだけで作成しました笑


リアリティチェック

プロジェクトの途中にはリアリティチェックがあり、外部からコンサルタントを呼んで、プレゼンの中身をチェックしてもらいます。私の時は、Goizuetaの卒業生で元マッキンゼーの方が来てくれました。かなりボコボコに指摘されましたが、的を得ている指摘だったので、素直に受け止めて修正作業をしました。


最終プレゼン

プレゼンは最後アトランタにあるScience Square Labsという場所で発表しました。会場にはエモリ―の学生や教授に加えて、コンサルやベンチャーキャピタルに勤めている外部の方も参加していました。プレゼンは10分間、質疑は5分間なので、言いたいことを短く端的にまとめる必要がありましたが、なんとか発表も質疑もうまく乗り越えることができました。


【まとめ】

上記で述べてきたように、かなりのコントリビューションが求められるプロジェクトですが、その分得るものは大きいです。以下の能力や知識が得られたと思います。

  • GenAI, Martech分野に対する知見
  • プライシング戦略全般に対する知識
  • エンタプライズ企業向けのカスタマーサクセス
  • 情報が少ない中で道筋をたてる仮説構築力
  • リーダーとしてチームをまとめ上げるリーダーシップ
  • 部下を管理するマネジメント能力

興味がある方はぜひトライしてみてください!


             チームメンバーとの集合写真



                 プレゼンの様子





ハンズオン型ベンチャーキャピタルの授業について

 どうもClass of 2025のK.Sです。いよいよ帰国の日が近づいてきましたが、最後のセメスターで印象に残ったVenture Capital and Minority Entrepreneurshipという授業ついて紹介します。

この授業は、Goizueta Business Schoolの学生がメインで運営するPeach Tree Minotiry Veture Capitalという組織にアナリストとして配属され、セメスターを通じてベンチャーキャピタルの業務をハンズオン形式で学んでいきます(普通の授業と同じ単位数がもらえます)。

元々スタートアップ企業の経営戦略に興味があったのですが、投資を受ける側ではなく、投資をする側からはどのようにスタートアップを見ているのかに興味があり、この授業を履修しました。


【履修方法】

履修できるかどうかは選抜式で、この授業を受けたい学生は事前に応募して、選考を通過する必要があります(選考では履修理由等を1分ほどのビデオ動画に収め提出します)。


【学生とクラスの様子】

さて、クラスにはどのような学生がいたかというと、2年生フルタイムMBA、1年生フルタイムMBA、イブニングMBA、Exchage Studetが満遍なく混ざっているような授業でした。ちなみに私のチームはアメリカ人3人、中国人1人、オーストリア人1人の計6人でした。

また、メインの教授はJBというファイナンスの教授なのですが、その教授は教室の後ろに座って見守るようなスタイルをとっています。ほとんどの講義は、2人のAdjunct Professorとファンドを実際に運営している学生によって実施されます。


【クラスの負荷】

私はこのセメスターで他に2つの授業をとっていましたが、負荷的には全然こなせるレベルでした。基礎からしっかり教えてくれるので初学者でもついていけると思います。


【クラスの内容と流れ】

前半:

まず、自分の興味に応じて6つのチーム(テクノロジー、ヘルスケア、小売り等)にアサインされます。私はテクノロジーのチームにアサインされました。授業の内容についてですが、最初は主にベンチャーキャピタル業務の基礎知識を学びます。「まず、ベンチャーキャピタルってなにするの?」みたいところから始まるので、初学者の自分にとっては助かりました。授業が進んでいくと、プレマニーとポストマニーの計算、Safe条項、デューデリジェンスの手順や勘所等についても教えてくれます。


中盤:

前半で学んだことを活かして、チームごとに自分たちが投資したい企業を探していきます。企業の探し方ですが、例えばスタートアップを紹介するサイトを見たり、アトランタのスタートアップのピッチイベントに行って、有力なスタートアップを探したりと、この辺はチームの判断に任されます(一応大学側があらかじめピックアップをしてくれている企業も何社かあります)。良さそうな企業を複数社見つけたら、まずはShort Memo(投資判断の初期段階において、投資先候補スタートアップの概要を簡潔にまとめた内部用の文書)をいくつか作成していきます。Short Memoには、会社概要、会社のビジョン、創業者の経歴、スタートアップが解決しようとしている問題、その問題に対してスタートアップが提案する解決策、市場分析(市場ドライバー、法規制、TAM, SAM, SOM、競合他社等)、ビジネスモデル、これまでの投資実績などの内容が含まれます。Short Memoは全部で3回作成しますが、その度に担当コーチがフィードバックをくれるので、改善点は明確になります。また、これらの情報を探すためのツール(Pitchbook、LinkedIn等)の使い方も教えてくれます。

また、本筋の授業以外に、本物のスタートアップの創業者を教室に招いて講演会を実施することもあります。セメスターを通して5回ほど行われました。これはベンチャーキャピタルが、そのスタートアップが本当に有望なのかどうかを、創業者に質問を投げかける中で判断する良い経験にもなると思います。

また、少しセンシティブなマイノリティに関するトピックを取り上げてディスカッションをすることもあります。例えば、Peach Tree Minotiry Veture Capitalはその名の通り、アメリカにおけるマイノリティ(黒人、ラテン、女性等)の創業者が運営するスタートアップを支援することを目的としています。いわゆる大手のVeture Capitalで働くキャピタリストの比率は白人男性が多く、そこからくるバイアスのギャップによって、マイノリティの創業者の支援が十分に行き届いていないという問題提起をクラスの中で議論するということもありました。正直ここまで人種問題について突っ込んだ議論を提供している授業はこの2年間で受けたことがなく、日本人の自分にとってはかなりのカルチャーショックだったことを覚えています。


終盤:

いよいよ終盤に差し掛かると、中盤でShort Memoを作成した3社の中から、有力なスタートアップを1社ピックアップして、Long memo(投資実行を真剣に検討する段階で作成される詳細な投資分析資料)を1通作成しています。私たちは、Keepinglyという不動産マネジメントのSaaSビジネスを提供しているスタートアップについて、Long Memoを作成することにしました。調査項目はほぼShort Memoと同じですが、表面的な調査ではなく、より深い本格的な調査が必要になります。例えば、自分たちで調査したけどわからないところは、実際に創業者に直接コンタクトをとって質問をぶつけてみて、実際に現場で起こっていることをLong memoに反映させていくようなことも行います。私は創業者にコンタクトをとる窓口の役割を担いました、最初にコンタクトをとるところから、その後のフォローアップの質問リストの送付、最後には投資判断の決定を創業者を知らせるところまで行う中で、スタートアップに対するベンチャーキャピタルのアナリストに求められる振る舞いやや言葉遣いみたいなところも学べたことが貴重な体験だったと思っています。

Long memoの情報を基に、最後に教授とクラスメートの前に発表を行います(この発表が投資委員会への発表という位置づけです)。このプレゼンの結果より、6チーム中1チームのスタートアップが実際の投資先として選ばれます。結果的に私のチームは選ばれませんでしたが、プレゼン資料の作成を通して、収集した情報をビジュアル的に落とし込む力もついたかなと思います。


【最後に】

上記の通り、本授業は最初に学んだことを実践することを重視しており、座学では得られない多くの貴重な体験をすることができます。また、マイノリティの問題や、実際の創業者の話を聞く機会も多く、広い視座が得られる機会も多くあります。スタートアップやベンチャーキャピタルに興味がある人にはおすすめの授業です。


              チームメンバーとの集合写真