私の最後のブログは米国での起業体験について触れたいと思います。
アントレにご感心のある方は是非お読み下さい。
ここ米国は(もちろん地域差はありますが、)優秀な学生は就職はせず起業をするものだという風潮が大なり小なりあります。また優秀な学生云々に関係なく、本当にたくさんの起業家がいます。そしてその人達に投資をする投資家もたくさんいます。アトランタも例外ではありません。
さてでは何故このMBAの2年間で起業に取り組む意義があるのかという質問への答えとしては以下を強調したいと思います。
- ビジネススクールで学んだことすべてを実際の社会で試す非常によい機会
- GBSにいる間だからこそ活用できるたくさんのリソース
- ビジネスをサポートしてくれる温かい友人がたくさんいる
1. ビジネスの思いつき
車を乗るのは好きで学生の頃は頻繁に走りに行っていましたが、メカに関する関心はゼロ、整備はディーラー任せ、そんな状況でここアトランタで一度車の診断に行った時のこと。
修理工A:タイヤ3本すり減ってもう換えなきゃいけないしタイミングベルトも換えていないでしょ?もしベルト切れたらエンジンが相当傷んで修理費もっとかかっちゃうよ
MAT:全部でいくらくらいしますか?
修理工A:全部で$2,000以上は覚悟して下さい。
MAT:U・S・O?
あまりの価格に驚き、でも価格感のまったくない私は家に帰って市場価格を調べることに。Google検索をしていると色んな価格が飛び込んでくる飛び込んでくる。
うちの車はRV車とはいえBridgestoneとかMichelinを選ばなければ1本$100から$150で十分買えること、タイミングベルトの交換も$700から$800くらいでできることを勉強。
”ということは高めに見積もってもせいぜい$1,200くらいが適正な価格ということか・・・。”
更に$700という高額サービスに疑念をもった私は検索を続けて、タイミングベルトの原価を調べました。するとそれは$100から$150でうちのCRV向けベルトは手に入ることが発覚しました。
”$700のサービスって殆ど労務費やんけ。日給どれだけやねん!?”
そこで私は考えました。
”この労務費をカットできれば格段に価格が下げられるはず”
”独立系のメカニックは労務費にフレキシブルで大手チェーンが提示できないプライスでも仕事を受けるに違いない”
”これをリバースオークションでドライバーが多くのメカニックにビッドできれば、仕事を受けたいメカニックと安くサービスを受けたいドライバーの双方のニーズを繋げられるのではないか”
という簡単な思いつきでちょっと新しいビジネスをやってみようと思ったのが1年前です。
2. どのように始めるか?
一般的に、新規事業を考えるにあたっては、顧客ニーズが何でどんな価値(Value Propositionといいいます)が彼らにあって云々からビジネスモデルを構築してゆき、それがビジネスとしてメイクセンスするのかを、想定するターゲット市場規模を踏まえてFinancial Planを構築するというのが大まかな流れだと思います。
ビジネスアイディアを様々な観点、ステークホルダーからの視点で深く考えるための便利なツールとしてCanvasというのが一般的に使われているようです。
以下はその事例ですが、興味があればご覧ください。
https://strategicvalueofdesign.files.wordpress.com/2012/03/business-model-canvas.png
そのアイディアがウケるのかウケないのか、実行可能なのかどうかという最終的な部分はやってみないとわからない部分も多々あると思いますが、GBSの一員でいることで非常に多くのリソースをアイディアの具体化、精緻化に役立てることが出来ます。
例えば、、、
- 本来はお金を払わないと入手できないようなマーケットレポート、新聞雑誌記事検索、Dow Jones ReportなどがGBSの生徒ならば利用が可能
- アントレの教授に対してプレゼンを行ったり意見を求めることが非常に容易
- 意見を求めれば関心を以って耳を傾け意見をしてくれる数多くの同級生
- 友達がアプリの開発をやっている、会社設立の経験がある、等々の有益な情報を、我々の役に立つのではと紹介をしてくれるスモールコミュニティーならではのネットワーク
またマーケティング戦略を考えてゆく上では、1年生の春学期に履修をしたGMSCでの経験が生きました。
GMSCでは、市場調査をする際に、対象となりそうな母集団を集めてインタビューを行ったり(Focus Group Interview)、アンケートや戸別訪問をして定量・定性分析(Quantitative Analysis/Qualitative Analysis)を行ったり、それを踏まえて顧客のターゲティングを行ったわけですが、今回まさに同じステップを踏むことで自分たちのビジネスのブラッシュアップに役立てることが出来ました。
したがって、ビジネススクールで1年生時に学んだことすべてを実際の自分のビジネスに応用するという貴重な機会を得ました。
ケースと違って答えらしきものもなければ情報量も圧倒的に異なる実際のビジネスなので学んだことの総仕上げとして本当に最適でした。
3. 我々に足りないもの?
途中具体的なマーケティングツールの話になったときに、想定している顧客ターゲットを考えても安価なマーケティングツールとして携帯アプリは必須であろうということで、決済機能を載せた携帯アプリを開発するべきだという結論になりました。
しかし、私と相棒両名にはそれらの分野に関する知識を著しく欠いていたので、何をどうしてよいのか途方に暮れました。しかし我々は直接にはそれら知識を持ち合わせていなくても、それらに精通している友人をもっていたり、精通している友人を持っている友人をもったいたり、ここでもGBSのスモールコミュニティーを活かした人脈の近密さが生きました。
”誰々が既にアプリを開発しているから聞いてみたらいいよ”
”Fivirr経由でプログラミングを安価に依頼できるらしいよ”
”コンピューターサイエンスの修士を持った友人が起業しているから話を聞いてみる?”
等々、いろいろなサポートを得ることが出来ました。
最終的には、事業の開始時点では、ビジネスモデルの微修正も今後必要であるかもしれず、現段階でどのようなスペックのアプリに必要で、いくら今の段階で投資をするべきか判断ができないということから、まずはマニュアルで事業をスタートさせ(Prototype Stage)、ビジネスが軌道に乗ったところでアプリを開発して大規模に拡大する(Expansion Stage)という2段階の展開を見据えることにしました。
しかし、様々なネットワークを駆使して情報を収集できているので、今後実際のアプリを開発することとなった場合にはその知識と人脈を活かして実行するのみという状況まで到達出来ました。
もしGBSでアントレを志向するのであれば、アントレに興味を持ってそうな同級生を何人か見つけ、何かにつけ捕まえて議論を行いフィードバックをもらうことをオススメします。
こちらから話をすれば彼らが持っているリソースを惜しみなく紹介をしてくれますので、自分だけでは到達できない、到達するのに非常に時間のかかることを非常に効率的に取り組むことが出来ます。
4. ビジネスのローンチ
Prototypeビジネスを開始するときが迫ってきました。
しかし我々のビジネスプラットフォームに参加をしてくれるメカニックを相応に確保しないといくら利用者が現れてもまったくワークしないので、まずはメカニックの確保をすることに。
しかし最初の一歩として、顧客がほんとうにいるのかわからない状態でメカニックが関心を示してくれるのかという現実的な見方から、メカニックに対するアプローチの仕方を検討した際にもクラスメートの力は本当に偉大でした。
我々はまずはクラスメートにメールでビジネス概要を送り、我々のプラットフォームを使って協力をしてもよい人はいませんかと協力者を募ったところ、直ぐに10件以上の申し出がありました。
2年生180人程度に対して10名以上の協力者が現れてくれたというのは大きなサポートになりました。
いまはまさにこの確定的なニーズがあることを示しながらメカニックにプラットフォームへの参加を促している最中です。
来週の今頃は一定数のメカニックが出揃って、初めてのリバースオークションを実行できるのではと期待しています。
5. 道半ば・・・
せっかくビジネスとして回り出すというこのタイミングで、私は残念ながらこの5月11日で卒業を迎えてしまいます。
今後は完全コミットという形での参画は非常に困難でしょう。
しかし幸いにもアトランタでコンサルティングファームに就職が決まっている人間が是非一緒に加わらせてくれないかとつい先日も言ってきたり、私の遺産・意思を引き継いてこのビジネスを継続してくれることになりそうです。
この1年弱、ビジネスアイディアの策定から実際の会社設立、事業の開始まで一連の起業プロセスをやってみましたが、感想としては、”起業って意外に簡単なんだな”という感想を得ました。
しかし仮にこれを日本で行おうと思った際には言葉の面は楽でも違った苦しみを味わったと思います。
やはり多くのクラスメート、教授、大学のリソースに囲まれて起業に専念できるという素晴らしい環境は、MBAの2年間を置いて他にはないと断言できます。
したがって、もしGBSに進学をされることとなった場合、アントレに興味が少しでもあるのであれば是非起業をすることをオススメします。
本当にいろいろなことを勉強することができます。
では皆さん、ゴイズエタビジネススクールを今後ともよろしくお願いします。