米国アトランタにあるエモリー大学ゴイズエタビジネススクール(Emory University Goizueta Business School)の日本人在校生によるブログです。

当校のプログラムやアトランタでの生活について書いています。

2014年2月26日水曜日

春学期も折り返し地点!選択科目紹介”Distressed Investing”

こんにちは。
既に死語となっているMATことまっちゃんです。

あっという間の必修の秋学期が終わり、長い冬休みでリラックスしすぎたところ、気がついたらGMSCという荒波に揉まれあっという間に春学期も折り返し地点に来ました。
(※GMSC:Goizuetaの看板授業で実際の企業にマーケティング戦略を中心にコンサルティングを実施。
詳細:http://goizueta-japan.blogspot.com/search?q=GMSC)
この調子だと2年間なんてあっという間なのでもっと大事に過ごさねばと思った次第です。

私は今週後半からミッドセメスターモジュールという春学期の折り返し地点で行われるプログラムでニカラグアとコスタリカに行ってきます。
Goizueta入学前よりソーシャルビジネスに関心があり入学前より着目していたプログラムなので今からかなり楽しみです。
その詳細は恐らくはgucci氏あたりより後日報告があると思いますので、そちらも楽しみにしておいて下さい。


前置きが長くなりましたが、本日は私が今学期に選択をした”Distressed Investing”という授業についてお話したいと思います。
”Distressed Investing”と聞いてピントとくる方は金融出身者でもそんなに多くはないと思うのですが、要は不良債権、倒産(間近)企業への投資に関する授業です。

この授業の特徴は、たくさんのケースライトアップと多くのゲストスピーカーの講義がある点だと思います。
ケースライトアップとは、ケースを読み込んでその中で問われている課題について回答を行うと同時に、そのケースのエッセンスやインプリケーションを3~5枚程度で纏めるというスタイルの授業です。
またゲストスピーカーに付きましても、ディストレストファンドやヘッジファンド、PEファンドで現役で活躍をされている人たちからの講義となりますので、金融最先進国のアメリカならではの投資の実情なども勉強できてかなり刺激的です。


その中でも特に印象に残ったのが、”Loan-to-Own” ストラテジーと呼ばれる投資戦略で、債権だけを購入することでは得られないアップサイドを追求するために、影響力を行使できる債権の持分を取得し、将来的にエクイティに変換し売却することで投資利回りを拡大するという戦略なのですが、授業で扱うケースでは、ではどのトランシェの債権をどれだけ購入してゆくのがよいのかということについて議論を行いました。

これは日本でも全く同様ですが、すべての債権は弁済順位が決まっており、担保のあるなしもすべて契約書に記載がありますが、その条件を考慮すれば、会社の財務状況に応じどのトランシェが満額弁済を受け、どのトランシェが弁済を受けられないかということが外部バリュエーション上試算されます。
したがって、仮に最終的に”Chapter 11”や”Scheme of Arrangement”等の日本で言う法的整理に至った場合、どの債権者が債務のリストラクチャリングに発言権があってどの債権者にはないのかということが一つの大きな問題になるのですが、将来的なエクイティへの投資機会を追求しようとした場合、満額弁済を受けられるようなシニアな債権(≒弁済されるので発言権はなし)でも、弁済を受けられずエクイティも充てられない劣後部分(≒価値がないので発言権はなし)でもない丁度頃合いのよい債権を如何に安く買い集めてゆくかということがポイントです。

次に問題になるのは、ではシニアでも劣後でもないちょうどよい頃合いの債権を購入するとして、どの程度の割合を購入すればよいのか、ということになります。債務の整理においては債権の保有額(”時価”)によって発言権が決まってくるので、自分の見立ての通りのリストラプランを実現させるためには、そのプランを通すために必要な発言権を確保する必要があります。
一方で、目立って買い進めてしまっては価格が高騰してしまったり、思った割合を購入できなくなってしまったりするので、ではどのように買い進めて行けばよいでしょうか。
一つの大きな戦略としては、大口の債権者から一括で購入する、というのが挙げられると思います。大口債権者と言ってもその債権を当初より保有する債権者もいれば、セカンダリー市場で買い集めたヘッジファンド、投資銀行のプロップデスク等もいますが、後者の投資家であれば共同投資という選択肢もあれば、安く買い集めた少ない持ち分を直ぐにディストレストファンド等に売却をして利益を確定させたい投資家もいるのでこれらの投資家から購入するというのも大きな選択肢です。

これは余談ですが、つい1~2年前に日本の某電気メーカーの業績が悪化した際に、つい先日までAA格で機関投資家もこぞって購入していた債券がBBB格となったとたん価格が暴落しました。
これは日本の多くの機関投資家の内規で、BBB格の債券は保有できないという規定を設けているところが多いために突如多くの売りが出てしまったことに起因するのですが、価格が暴落すれば内規でBBB格でも保有できていた投資家でも今度はロスカットルールで売却を余儀なくされる等、いずれにしても市場が一方向に向かいがちでした。加えてこの会社は数年後に大規模な転換社債の償還を控えており、その資金繰りの観点からも新たな買い手があまり出てきにくい状況でした。

では誰がその債券を買っていたのでしょうか?答えは先ほどのヘッジファンドや投資銀行のプロップが主な買い手(最終的な買い手は他にもいる)なわけですが、この例に限らず一般的に”Loan-to-own”ストラテジーが日本の場合機能するでしょうか?
私はそうは思いません。というのは、日本の場合、

  1. メインバンク制が未だ色濃く残っており、かつ、銀行融資は余程のことがない限り第三者へ売却することはしないので、最大の債権者は引き続きメインバンクである
  2. 米国と異なり企業の資金調達における直接市場の占める割合が小さいために、市場性の債権を集めてもインパクトは小さい
  3. 上場会社の場合、余程倒産間際まで追い詰められていない限りにおいては、エクイティファイナンスを実施することで信用力を回復しようとする

のような傾向があるために、債権投資から入って会社をコントロールし転換したエクイティで莫大な利潤を得るという機会はあまり多くないと思われます。

またこの背景には、日米の会社の間には法的整理に対する考え方に大きな違いがあるということも挙げられると思います。
これは講義のケースで何度も目にするのですが、米国企業経営者の頭のなかには債務を減らして会社を再建させるための一つの手段として、戦略的なChapter 11の活用というのがあるようです。
実際、過去に比べて大企業のChapter 11の増加は、そのような考え方の浸透によるところも大きいようです。

したがって、このような背景もあり法的プロセスに至ることも少なく、債権を買い集めて影響力を行使する機会も限られており、日本では”Loan-to-own”ストラテジーは通用しにくいと言うことができると思います。

一方で私が面白いと考える点は、債権購入から入って会社をコントロールして莫大な利潤を得るという機会は少ないものの、一方で、上記1や3にあるメインバンクやエクイティファイナンスによるサポートを考えればダウンサイドも非常に限定的かと考えます。
しかも、価格が理論価格よりも大きく乖離して下落する市場構造を有しているので日本市場はローリスク・ミドルリターンな魅力的な市場に外国人投資家に対しては映るのではないでしょうか。

また、話の脱線ついでにリーマン・ショック後に日本でも新興不動産会社が多く資金繰りに窮して倒産をしてしまいましたが、当時の状況も示唆に富んでいるので少し触れたいと思います。
なぜ多くの新興不動産会社の多くが倒産してしまったのかという理由としては、彼らの多くは確たるメインバンクも持っておらず、リーマンショックによる影響で直接市場が麻痺してしまった途端、資金繰りに窮してしまい、法的整理を余儀なくされてしまったという背景があります。

この状況でも、証券会社の店頭では額面の数%というような金額で債券が売買されていました。また当時も一部の外資系不動産ファンドや証券会社が債券を買い集めているという噂もありました。
不動産会社の場合、その資産はまさに不動産であるので、通常であれば安くすれば換金できるという考え方に立てば、ディストレスファンドも入りやすい事業な訳ですが、しかし結果としては、当時の日本においては本当にゼロのような価格で投資できた投資家ぐらいしか利益を得られなかったのではないかと思われます。
背景としては、金融市場から不動産会社への資金供給が途絶えてしまったために実物売買もなくなってしまい、いくら安くても換金しようにも換金できないという市況に陥ってしまったからです。

これはどの投資にも当てはまることだとは思いますが、個別企業の事業や資産内容もさることながら、その企業を取り巻く業界環境、マクロ経済の見通しというもの非常に大きな要素なのだと思われます。
そのような観点からも、Distressed Investingの授業では、ディストレストファンドながらリストラ+その後の事業戦略まで描いて長期投資をするファンドの事例がありました。店舗の統廃合を進め効率的な事業構造を確立するのと同時に、安定的なキャッシュフローが得られる事業とドミナントが確立できるエリアに集中することで成長軌道に再び乗せるというプランを描いていました。
これはまさにプライベート・エクイティの領域ですが、”安く買って高く売る”という原理原則に立てば、何に投資をするか、どれほどバリューアップにかけるかという違いはあれど、投資というものに大きな違いはないものだと改めて考えさせられました。


最後になりますが、この授業はフルタイムのMBA学生だけではなく、エグゼクティブMBAの学生や学部生も同時に受講をするクラスでした。
私のチーム(3人)には一人エグゼクティブMBAの学生がいるのですが、彼はホテルファンドのマネージャーでまさに不動産ファイナンスの専門家でした。
ケースを通じ彼のファイナンスモデルを見せてもらってまたひとつ違ったファイナンスモデルに触れる機会を得ることが出来たのも大きな収穫です。


このような多様性が得られる授業がたくさんあることもGoizuetaの大きな魅力の一つだと思います。
何かGoizuetaにおけるファイナンス関連、IB業務関連でご質問などあればお気軽にゴイズエタ日本人向けオフィシャルサイト(https://community.bus.emory.edu/sites/Japan/Pages/Home.aspx)にある下記アドレスまでご連絡を下さい。
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MAT